平野ゼミ
平野ゼミの学生が、保健医療社会学的な観点から取り組んだ論文を紹介します。
いずれも、社会的経済的文化的な背景を踏まえ、研究対象者のニーズを多面的に分析することで、その背景にある「問題」を浮かび上がらせようと試みています。
大学院生・研究生
- スシアナ・ヌグラハ
- 「日本インドネシア経済連携に基づき来日したインドネシア人看護師・介護福祉士候補者の直面する問題と、それに関連する社会的文化的要因」
日本インドネシア経済連携協定第7章「自然人の移動」に基づき、2008年8月以降、これまでに363人の看護師候補者および428人の介護福祉士候補者が来日しました。来日後看護師は3年以内に、介護福祉士は4年以内に日本の国家試験に合格しなければなりませんが、いまだに合格率は低いものになっています。この現状に対し、日本とインドネシアの言語的および文化的差異に着眼して、現状改善のための提言を行う研究に取り組んでいます。
卒業論文生
平成23年度
- 伊東 真梨、宮崎 友香里
- 「2型糖尿病患者の家族の精神的健康度とその社会的経済的背景に関する研究」
2型糖尿病患者の家族12名に対して調査を行い、家族のメンタルヘルスに関する要因を統計的に明らかにしました。その結果、患者に対して思ったことを率直に話せる人ほど、メンタルヘルスの状態が良く、逆に患者に対して過度に気を遣うことがある人ほど悪くなっていました。また聞き取りの結果から、家族は患者の世話の他に、家事や仕事を抱えるなど、多重役割を担っていることが明らかになりました。2型糖尿病の患者を対象とした研究はたくさんありますが、それを支える家族を対象とした調査はほとんどありません。しかし本研究は、家族もまた、慢性疾患を抱えた患者と同様、ケアの対象となりうることを示しています。
- 藤田 恭介、松尾 由紀子
- 「五島の住民の保健・医療に対する満足度とその関連因子に関する調査」
五島市及び新上五島町在住の被雇用者248名に対する調査を行い、離島である五島列島における保健医療に関する満足度及びそれを規定する要因について、統計的手法を用いて明らかにしました。その結果、五島列島における保健医療に関する不満足度としては、「医療者の技術の未熟さ」「担当医の入れ替わり」という項目が目立ちました。離島では、本土から派遣された若手の医師が一時的に滞在して医療を担うのが現状で、安定化した医療体制を確立することが必要であると言えます。
平成24年度
- 今屋 香澄、平山 愛美、前田 優美、本松 邦恵
- 「T団地在住の高齢者と地域住民によるインフォーマル・サービスに関する調査:『助っ人隊』の事例を中心に」
本研究は、長崎市T団地在住の地域の高齢者住民に対するインフォーマル・サービス「助っ人隊」の現在の認知度及び利用度、今後の利用に関する認識に関連する要因を、T団地在住の60歳以上の住民156名に対する調査を通して、統計的に明らかにしました。その結果、86%の人が「助っ人隊」を知っていましたが、現時点で利用したことがあるのは11%でした。しかし、今後「助っ人隊」を利用しようとする人は、64%でした。このことから、住民が元気なうちは、「助っ人隊」を利用しなくても済んでいますが、高齢化のより進む将来は、「助っ人隊」を利用する人が多くなることが考えられます。 なお、「助っ人隊」は地域への信頼度が高い人で利用されていましたが、逆に近隣の人間関係に不安がある人にも利用される傾向がありました。このことから、「助っ人隊」は地域社会的で孤立しがちな人々に働きかけることで、比較的中立なインフォーマル・サービスの役割を果たす機能があると考えられました。