プレスリリースPRESS RELEASE



(博士課程)医療科学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Medical and Dental Sciences
(修士課程)保健学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Health Sciences


2022.08.26
脊髄神経機能不全によるしびれ感に対する新たな経皮的電気神経刺激の効果

研究紹介

脊髄損傷や頚椎症性脊髄症等の脊髄神経機能不全を呈する多くの患者において,ビリビリ,チクチク,ヒリヒリと表現されるしびれ感が生じます.しびれ感は「感覚神経伝導路の障害によって起こる自発性異常感覚」と定義され,ADLQOLが著しく阻害されます.そのため,しびれ感に対する治療介入の必要性は極めて高いといえます.しかしながら,しびれ感に対する薬物療法は効果が乏しく,有害事象のリスクが高いことがシステマティックレビューにおいて報告されています.また,リハビリテーションによる改善は困難とされており,しびれ感に対する体系的な介入は十分に確立されていないのが現状でした.
長崎大学生命医科学域(保健学系)および畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター客員研究員の西祐樹らは,経皮的電気神経刺激(TENS)の周波数と強度をしびれ感に同調させる“しびれ同調TENS”を開発し,即時的効果を検証しました.

研究のポイント

・脊髄神経機能不全によるしびれ感に対して,TENSの周波数と強度をしびれ感に一致させる”しびれ同調TENS”を 行った.
・その結果,しびれ感だけでなく,感覚障害やアロディニアも改善した.
・既存のTENSの理論では説明できない新たな作用機序による効果の可能性がある.

研究内容

<方法>
対象
脊髄損傷や頚椎症性脊髄症等の上肢にしびれ感を呈する脊髄神経機能不全症例9名としました.

評価項目
1)体性感覚誘発電位(SSEP):感覚神経伝導路の機能評価をして用いました.N20と言われる皮質反応の潜時と振幅を算出しました.潜時の遅延や振幅の低下は感覚障害の程度を反映します.
2)しびれ感の定量的評価:電気刺激に対するしびれ感の細かさや強度を定量的に評価しました.(図1
3)マクギル痛み質問表:疼痛の性質を評価する質問紙であり,神経障害性疼痛やしびれ感の主観的な程度を評価します.
4)定量的感覚検査:感覚障害や触るだけで痛いアロディニア等を包括的に評価できます.
SSEPTENS実施前に,マクギル痛み質問票ならびにQSTはしびれ同調TENSの実施前および実施中に行いました.

 

図1 電気刺激に対するしびれ感の定量的評価

<結果>
しびれ同調TENSにより即時的にしびれ感の著明な改善が観察されました.多くの症例において「しびれ感とTENSによる電気が流れる感覚が打ち消し合ってどちらもなくなった」と表現しており,感覚障害や触るだけで痛いアロディニアも有意に改善されました(図2).このしびれ感とともにTENSの感覚までも減弱する現象は,従来の下降性疼痛抑制系やゲートコントロール理論では説明できず,新たなメカニズムによりしびれ感が改善している可能性があります.一方,体性感覚誘発電位が消失している,つまり重度感覚障害の症例においては,しびれ感にTENSを同調させることができず,適応とはなりませんでした.これらのことから,知覚に関連した脳領域におけるしびれ感の抑制や,しびれ感に関連した末梢神経線維を選択的に遮断するbusy line effectが作用メカニズムとして推察されます.



図2 しびれ同調TENSによる効果
 


研究の意義

しびれ同調TENSは,治療に難渋してきたしびれ感に対する新たな介入手法であり,リハビリテーションの介入領域を拡大する可能性があります.今後はしびれ同調TENSの長期的効果の検証や作用機序の解明に取り組む予定です.



論文情報
Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Igawa Y, Osumi M, Morioka S. A novel form of transcutaneous electrical nerve stimulation for the reduction of dysesthesias caused by spinal nerve dysfunction: A case series. Frontiers in Human Neuroscience, 16, 937319. 2022 (Accepted 11 July 2022)

問い合わせ先

長崎大学生命医科学域(保健学系)
西 祐樹 (ニシ ユウキ)
Tel: 095-819-7967
E-mail: ynishi@nagasaki-u.ac.jp


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