・脊髄神経機能不全によるしびれ感に対して,TENSの周波数と強度をしびれ感に一致させる”しびれ同調TENS”を 行った.
・その結果,しびれ感だけでなく,感覚障害やアロディニアも改善した.
・既存のTENSの理論では説明できない新たな作用機序による効果の可能性がある.
<方法>
対象
脊髄損傷や頚椎症性脊髄症等の上肢にしびれ感を呈する脊髄神経機能不全症例9名としました.
評価項目
1)体性感覚誘発電位(SSEP):感覚神経伝導路の機能評価をして用いました.N20と言われる皮質反応の潜時と振幅を算出しました.潜時の遅延や振幅の低下は感覚障害の程度を反映します.
2)しびれ感の定量的評価:電気刺激に対するしびれ感の細かさや強度を定量的に評価しました.(図1)
3)マクギル痛み質問表:疼痛の性質を評価する質問紙であり,神経障害性疼痛やしびれ感の主観的な程度を評価します.
4)定量的感覚検査:感覚障害や触るだけで痛いアロディニア等を包括的に評価できます.
図1 電気刺激に対するしびれ感の定量的評価 |
<結果>
しびれ同調TENSにより即時的にしびれ感の著明な改善が観察されました.多くの症例において「しびれ感とTENSによる電気が流れる感覚が打ち消し合ってどちらもなくなった」と表現しており,感覚障害や触るだけで痛いアロディニアも有意に改善されました(図2).このしびれ感とともにTENSの感覚までも減弱する現象は,従来の下降性疼痛抑制系やゲートコントロール理論では説明できず,新たなメカニズムによりしびれ感が改善している可能性があります.一方,体性感覚誘発電位が消失している,つまり重度感覚障害の症例においては,しびれ感にTENSを同調させることができず,適応とはなりませんでした.これらのことから,知覚に関連した脳領域におけるしびれ感の抑制や,しびれ感に関連した末梢神経線維を選択的に遮断するbusy line effectが作用メカニズムとして推察されます.
図2 しびれ同調TENSによる効果 |
しびれ同調TENSは,治療に難渋してきたしびれ感に対する新たな介入手法であり,リハビリテーションの介入領域を拡大する可能性があります.今後はしびれ同調TENSの長期的効果の検証や作用機序の解明に取り組む予定です.
論文情報
Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Igawa Y, Osumi M, Morioka S. A novel form of transcutaneous electrical nerve stimulation for the reduction
of dysesthesias caused by spinal nerve dysfunction: A case series. Frontiers in Human Neuroscience, 16, 937319. 2022 (Accepted 11 July 2022)
長崎大学生命医科学域(保健学系)
西 祐樹 (ニシ ユウキ)
Tel: 095-819-7967
E-mail: ynishi@nagasaki-u.ac.jp