プレスリリースPRESS RELEASE



(博士課程)医療科学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Medical and Dental Sciences
(修士課程)保健学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Health Sciences


2022.06.28
高齢入院患者における骨格筋の質および硬さと関節可動域との関連性―超音波画像計測装置を用いた検討―

研究紹介

関節可動域制限は加齢や不活動によって惹起され,その発生メカニズムには骨格筋の線維化と伸張性の低下が関与すると報告されています.一方,近年では超音波画像計測装置を用いて筋輝度を計測することで線維化などの骨格筋の器質的変化が可視化でき,エラストグラフィー機能を用いてStrain Ratioを計測することで伸張性と関連を認める骨格筋の硬さを評価できると報告されています.そこで本研究では,若年健常者と高齢入院患者の長内転筋の筋輝度およびStrain Ratioを比較するとともに,高齢入院患者のこれら2つのパラメータと股関節外転可動域との関連性を検討しました.

研究のポイント

高齢入院患者の長内転筋では線維化などの器質的変化や硬さの増加が生じている可能性が示唆されました.また,高齢入院患者では長内転筋の硬さの増加と股関節外転可動域制限との間に関連性が認められました.

研究内容

<方法>
対象
若年健常者22名(男性:11名,女性:11名,平均年齢:23.3歳)および高齢入院患者60名(男性:28名,女性:32名,平均年齢:86.1歳)
評価項目
1) 股関節外転可動域:ゴニオメータで計測.
2) 長内転筋の筋輝度:計測した超音波Bモード画像を基に,画像解析ソフトによって256諧調(0~255)の数値として算出(図1).なお,数値が高いほど長内転筋における線維化などの器質的変化が顕著であることを表します.
 
 図1 長内転筋の筋輝度の解析画面

3) 長内転筋のStrain Ratio:超音波エラストグラフィーモードを使用し,硬度基準物質に対する長内転筋の歪み比を算出(図2).なお,数値が低いほど長内転筋が硬いことを表します.

 図2 長内転筋のStrain Ratioの解析画面

<結果>
高齢入院患者は若年健常者と比較して股関節外転可動域ならびにStrain Ratioが有意に低値であり,筋輝度が有意に高値でした(図3).この結果は高齢入院患者の長内転筋において線維化などの器質的変化や硬さの増加が生じている可能性を示しています.
 
 図3 若年健常者と高齢入院患者における股関節外転可動域,
長内転筋の筋輝度およびStrain Ratioの比較

高齢入院患者の筋輝度と股関節外転可動域との間には有意な相関は認められませんでした(図4-A).先行研究では筋輝度が線維化のみならず筋内脂肪の増加も反映すると報告されています.つまり,今回の筋輝度の結果は線維化と筋内脂肪の増加が混在した状態を反映しており,このことが前述の相関の結果に影響をおよぼしていると推察されました.
一方,Strain Ratioと股関節外転可動域との間には有意な正の相関を認め(図4-B),これは長内転筋の硬さが増加するほど股関節外転可動域制限が顕著となることを示しています.
 図4 高齢入院患者における長内転筋の筋輝度およびStrain Ratioの関連

研究の意義

本研究の結果から,関節可動域制限を呈した高齢入院患者の骨格筋の硬さを客観的に評価するツールとして超音波エラストグラフィーを用いたStrain Ratioの計測が有用である可能性が示唆されました.


論文情報
Koichi Nakagawa, Hideki Kataoka, Chiaki Murata, Kyo Goto, Junichiro Yamashita, Yuichiro Honda, Junya Sakamoto, Tomoki Origuchi, Minoru Okita: Relationship between muscle quality or stiffness measured by ultrasonography and range of motion in hospitalized older adults. Ultrasound in Medicine and Biology (Accepted 11 May 2022)

問い合わせ先

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 理学療法学分野
社会医療法人長崎記念病院 リハビリテーション部
中川 晃一 (ナカガワ コウイチ)
Tel: 095-871-1515 
Fax: 095-871-1510
E-mail: ngawa1103kone@gmail.com


痛みコンテンツ



長崎大学

 〒852-8520
 長崎県長崎市坂本1-7-1
 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
 運動障害リハビリテーション学研究室
 TEL 095-819-7967
 FAX 095-819-7967




バナ