プレスリリースPRESS RELEASE



(博士課程)医療科学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Medical and Dental Sciences
(修士課程)保健学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Health Sciences


2024.04.05
筋収縮運動によるメカニカルストレスは不動化したラット大腿骨の微細構造の萎縮性変化を抑制する

研究紹介

安静臥床やギプス固定などによって四肢が不動状態に曝されると,骨へのメカニカルストレスの減少を契機とした不動性骨萎縮が発生し,これは骨強度の低下,ひいては脆弱性骨折の発症リスクの増悪を招きます.不動性骨萎縮の主な病態は皮質骨や海綿骨における骨密度の低下や骨微細構造の萎縮性変化とされていますが,これらの予防戦略は未だに確立されておらず,喫緊の課題となっていました.そこで我々は,骨にメカニカルストレスを負荷できる方策として筋収縮運動に着目し,これを不動早期から実施することで不動性骨萎縮の発生を予防できるのではないかと仮説を立て,動物実験による検証を行いました.

研究のポイント

不動化した骨に筋収縮運動を活用したメカニカルストレスを負荷すると,海綿骨における骨密度の低下と骨微細構造の萎縮性変化を抑止でき,骨強度の低下を予防できることが明らかとなりました.

研究内容

<方法>

実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,以下の4群に振り分けました.
1)無処置の対照群(CON群)
2)両側後肢をギプスで2週間不動化する群(IM群)
3)不動期間中に後肢骨格筋に対して60%MVC(高強度)で筋収縮運動を負荷する群(HES群)
4)不動期間中に後肢骨格筋に対して20%MVC(低強度)で筋収縮運動を負荷する群(LES群)
HES群とLES群は,大腿近位部と下腿遠位部にベルト電極を巻き,刺激周波数50Hz,刺激サイクル1:1の条件で,1回あたり15分間(6回/週),電気刺激による筋収縮運動を負荷しました.なお,刺激強度はHES群を4.7mA(60%MVCを誘発する強度),LES群を2.3mA(20%MVCを誘発する強度)に設定しました.

実験期間終了後は各群のラットから両側の大腿骨を採取し,以下の関心領域における皮質骨および海綿骨のµ-CT画像を撮像しました(図1).
<皮質骨領域>
遠位成長軟骨から2mm上方を下限に設定し,この下限から2mm上方までの領域
<海綿骨領域>
遠位成長軟骨から10mm上方を下限に設定し,この下限から2mm上方までの領域

そして,それぞれの領域における骨密度と骨微細構造を検索しました.なお,各領域の骨微細構造は以下のパラメータにて評価しました.

<皮質骨領域>
皮質骨幅:皮質骨の厚さ
極慣性モーメント:骨断面が回転力に抵抗する力
<海綿骨領域>
骨梁間距離:海綿骨内の骨梁間の距離
骨梁連結性:海綿骨の骨梁の連結形状を示す指標
皮質骨幅や極慣性モーメント,骨梁連結性は低値であるほど,骨梁間距離は高値であるほど萎縮性変化が進行していることを示します

 


µ-CTによる撮像が終了した試料は,3点曲げ試験(皮質骨強度の測定)と圧縮試験(海綿骨強度の測定)に供しました(図2).

<結果>
皮質骨のµ-CT画像ではIM群とHES群,LES群の3群間に著明な変化を認めませんでした,また,皮質骨密度や皮質骨幅,極慣性モーメントの結果から,HES群とLES群には皮質骨における骨密度の低下や骨微細構造の萎縮性変化を抑制する効果を認めませんでした.しかし,LES群にのみ皮質骨強度の低下を抑制する効果を認めました(図3).


海綿骨のµ-CT画像ではHES群とLES群がIM群よりも密な構造を示しました.また,海綿骨密度や骨梁間距離,骨梁連結性,海綿骨強度の結果から,HES群とLES群には海綿骨における骨密度の低下や骨微細構造の萎縮性変化を抑え,海綿骨強度の低下を抑制する効果を認めました(図4)

研究の意義

本研究の結果から,不動化した骨に筋収縮運動を活用したメカニカルストレスを負荷すると,不動性骨萎縮の発生を予防でき,この効果は筋収縮運動の強度に関わらず発揮されることが明らかとなりました.つまり,高強度の筋収縮運動を実施できる対象者では勿論のこと,術後の痛みなどで低強度の筋収縮運動しか実施できない対象者であっても,骨へのメカニカルストレスを継続的に負荷するといった視点が不動性骨萎縮の予防戦略として重要であると考えられます.

論文情報

Kajiwara Y, Honda Y, Takahashi A, Tanaka N, Koseki H, Sakamoto J, Okita M
Mechanical Stress Via Muscle Contractile Exercise Suppresses Atrophic Alterations of Bone-microstructure in Immobilized Rat Femurs

J Musculoskelet Neuronal Interact 1;24(1): 22-30, 2024.

問い合わせ先
長崎大学生命科学域(保健学系),長崎大学大学院医歯薬学総合研究科理学療法学分野
助教 本田祐一郎(ホンダユウイチロウ)
Tel: 095-819-7967
Fax: 095-819-7967
E-mail: yhonda@nagasaki-u.ac.jp


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