<方法>
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,以下の4群に振り分けました. 1) 無処置の対照群(Con群) 2) 両側足関節を最大底屈位で2週間ギプスで不動化する不活動群(Im群)
3) 不活動の過程で後肢骨格筋に1:3の刺激サイクル(2秒通電:6秒休止)で20分間,B-SESによる筋収縮運動を負荷するlow-frequency(LF)群
4) 不活動の過程で後肢骨格筋に1:1の刺激サイクル(2秒通電:2秒休止)で15分間,B-SESによる筋収縮運動を負荷するhigh-frequency(HF)群
自験例*にてLF群の刺激条件は決定しており,本研究ではHF群の刺激強度と刺激時間を決定するための予備実験を行いました(図1).そして,これらの結果を踏まえ,LF群とHF群には刺激周波数50Hz,刺激強度4.7mAの条件で,1回/日,6日/週の頻度で延べ2週間,電気刺激による筋収縮運動を負荷しました.
* Honda Y, et al.: Effect of belt electrode-skeletal muscle electrical stimulation on immobilization-induced muscle fibrosis.PLoS One 13; 16(5), 2021. |
正常ラットを用いて足関節中間位での底屈筋力を測定し,筋線維萎縮の予防に効果的とされる最大筋力の60%の筋力を発揮する刺激強度(4.7 mA)を求めました(左図).また,刺激時間を決定するための予備実験の結果,刺激開始後18分までは底屈筋力が最大筋力の60%を下回らないことを確認し,刺激時間を15分に決定しました(右図). |
実験期間中は各週で足関節背屈可動域と腓腹筋外側頭の筋圧痛閾値を計測し,実験期間終了後は両側腓腹筋を採取しました.そして,各試料はマクロファージ数やタイプ別の筋線維横断面積の計測,筋特異的なユビキチンリガーゼであるAtrogin-1やMuRF-1とその転写制御を担うPGC-1αのmRNA発現量の測定,コラーゲン含有量や神経成長因子(NGF)含有量の定量に供しました.
<結果>
不活動化した腓腹筋にHF群の刺激条件でB-SESによる筋収縮運動を負荷すると,マクロファージの集積が抑制されました(図2).
さらに,筋性拘縮に関わるパラメータの変化を検索した結果,HF群の刺激条件でのみ線維化が抑えられ,筋性拘縮の発生が予防されました(図5).
加えて,筋痛に関わるパラメータの変化を検索した結果,LF・HF群のいずれの刺激条件でもNGFの発現亢進が抑えられ,筋痛の発生が予防されました(図6).
不活動の過程で筋収縮運動を実施すると筋線維萎縮や筋性拘縮,筋痛といった運動器不活動症候群の発生を予防でき,その効果には筋収縮運動の回数が影響をおよぼす可能性が示唆されました.つまり,介入早期から離床や筋収縮運動を頻回に実施することは運動器不活動症候群に対する効率的な治療戦略になり得ると考えられます.そして,医学的管理などの理由から早期離床が困難な症例であっても,電気刺激療法を利用した筋収縮運動を積極的に実践することで,運動器不活動症候群の発生予防につながると推察されます.
論文情報
Honda Y, Takahashi A, Tanaka N, Kajiwara Y, Sasaki R, Okita S, Sakamoto
J, Okita M
Muscle contractile exercise through a belt electrode device prevents myofiber
atrophy, muscle contracture, and muscular pain in immobilized rat gastrocnemius
muscle
PLoS One;17(9), 2022
doi: 10.1371/journal.pone.0275175
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 理学療法学分野
助教 本田祐一郎(ホンダユウイチロウ)
Tel: 095-819-7967
Fax: 095-819-7967
E-mail: yhonda@nagasaki-u.ac.jp