プレスリリースPRESS RELEASE



(博士課程)医療科学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Medical and Dental Sciences
(修士課程)保健学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Health Sciences


2023.7.14
障害高齢者における関節可動域制限と活動量の関連

研究紹介

老人ホームなどの長期ケア(LTC)施設では拘縮を有している障害高齢者は多くみられます.拘縮を有していると自発的な移動や運動が困難となり,基本的な日常生活動作(ADL)を介助者に依存することとなります.このような拘縮の最も重要な要因として,不動または不活動が挙げられています.しかし,拘縮と身体活動量との関連について定量的に調査された報告はありません.一方,近年では身体に装着する加速度計が身体活動量の測定に使用されるようになり,日常生活における身体活動量を客観的,かつ直接的に測定することができます.そこで,本研究では,加速度計によって測定された身体活動量と,LTC施設における障害高齢者の頚部・上下肢の関節拘縮との関連を調査しました.

研究のポイント

LTC施設における障害高齢者は,身体活動量が低いほど全身に重篤な関節可動域制限を有している.

研究内容

<方法>
 対象:2017年4月~2019年7月までに当院にて長期的な治療を受けていた障害高齢者としました.
 評価項目:年齢,性別,疾患,CSHA-Clinical Frailty Scaleによる虚弱状態,栄養管理,チャールソン併存疾患指数,入院期間
 活動量の評価:ActiGraph GT3Xを非利き手の手首に1日8時間(9:00~17:00)装着しました.測定された加速度から算出されたベクトルマグニチュード(VM:計算式√ (x2 + y2 + z2 ))を活動量の指標としました.
 関節可動域の評価:ゴニオメーターを使用し,表1に記載した関節及び運動方向の角度を測定しました.

関節

運動方向

頚部

屈曲・伸展・側屈・回旋

肩関節

屈曲・外転

肘関節

屈曲・伸展

手関節

掌屈・背屈

股関節

屈曲・外転

膝関節

屈曲・伸展

足関節

背屈

表1.表1.評価した関節可動域

 関節可動域制限の重症度の評価:各関節・運動方向の参考可動域の3分位値によりROM制限の程度をbest(1点),intermediate(2点),worst(3点)に分類し,その合計点(28~85点)によって重症度を判定しました.

【例】肩関節屈曲;参考可動域 180° 180~120°; best(1点),115~60°; intermediate(2点), 55°以下; worst(3点)
 統計解析:身体活動量(VM)と各関節及び運動方向のROM角度との関連および,VMとROM制限の重症度との関連をspearmanの順位相関係数で検討しました(有意水準5%未満).

<結果>
128例(女性79人,男性49人)が研究対象となり,そのうち 2 人の患者は大腿部を切断し,1 人は足首を切断しています.対象者の平均年齢は84.8±8.8歳でした. CSHA Clinical Frailty Scale では,2 人の患者が 5 点,6 人が 6 点,93 人が 7 点,27 人が 8 点でした.平均在院日数は543.6 ±927.7日でした. ROMの平均値の結果は,肘関節屈曲角度134.4±15.9°と膝関節屈曲角度129.1±26.7°であったことを除いて,ほとんどの関節と運動方向に制限があり,手関節屈曲と股関節外転を除くすべての関節と運動方向のROMがVM と有意に相関しており,下肢 (0.133 < Spearman's rho < 0.350) よりも上肢 (0.300 < Spearman's rho < 0.562) でその傾向が高いという結果でした(表2). VM 数は,ROM 重症度スコアと有意に負の相関があることがわかりました(図1).
 

 

Rsa

P value

 

Rsa

P value

 

Rsa

P value

頚部屈曲

0.425

p < .0001

肩関節屈曲

0.562

p < .0001

股関節屈曲

0.217

p = .0005

頚部伸展

0.297

p = .0006

肩関節外転

0.541

p < .0001

股関節外転

0.122

p = .0514

頚部回旋

0.435

p < .0001

肘関節屈曲

0.300

p < .0001

膝関節屈曲

0.133

p = 0342

頚部側屈

0.215

p = .0005

肘関節伸展

0.391

p < .0001

膝関節伸展

0.226

p = .0003

 

 

 

手関節掌屈

0.067

p = 2860

足関節背屈

0.350

p < .0001

 

 

 

手関節背屈

0.462

p < .0001

 

 

 

表2.各関節の可動域とVMのスピアマンの相関関係

図1.各関節の可動域とVMのスピアマンの相関関係


研究の意義

本研究の結果から,LTC施設における障害高齢者はほとんどの関節にROM制限が生じており,ROM制限は身体活動量と負の相関があることが明らかになりました.また,身体活動は,単一の関節の ROM だけでなく,全身のROMにも影響を与える可能性があることを示唆しています.よって,身体活動量の増加は,LTC 施設における障害高齢者の 拘縮の発生予防や関節可動域制限の予防に有用であると示唆されました.



論文情報
Murata C, Kataoka H, Aoki H, Nakashima S, Nakagawa K, Goto K, Yamashita J, Okita S, Takahashi A, Honda Y, Sakamoto J, Okita M.: The Relationship Between Physical Activity and Limited Range of Motion in the Older Bedridden Patients. Can Geriatr J. 2023; 26(1): 1-8. doi: 10.5770/cgj.26.627.

問い合わせ先
社会医療法人長崎記念病院 リハビリテーション部 副部長
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 理学療法学分野 客員研究員
片岡英樹(カタオカヒデキ)
Tel: 095-871-1515
Fax: 095-871-1510
E-mail: kataoka-hide@kii.bbiq.jp

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