(博士課程)医療科学専攻 理学療法学分野
Department of Physical Therapy Science, Medical and Dental Sciences
(修士課程)保健学専攻 理学療法学分野
Department of Physical Therapy Science, Health Sciences
2022.01.05
不動による骨格筋の線維化の発生メカニズムの基盤であるマクロファージの集積は活性型カスパーゼ3を介した筋核のアポトーシスが関与する
研究紹介
筋性拘縮の主要な病態である線維化の発生メカニズムにはマクロファージの集積を発端としたIL-1β/TGF-β1の分子シグナリングの賦活化が関与しているといわれています.つまり,マクロファージの集積は線維化の発生メカニズムの基盤となる重要事象といえますが,なぜこの事象が生じるのかは明らかになっていませんでした.そこで,本研究では不動化したラットヒラメ筋を検索材料に用い,この点を検討しました.
研究のポイント
不動状態に曝された骨格筋では活性型カスパーゼ3の発現を契機として筋核にアポトーシスが生じ,その筋核に制御されていた細胞質領域の処理のためにマクロファージが集積すると考えられ,結果,線維化が惹起され,筋性拘縮に発展すると推察されました.
研究内容
<方法>
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,以下の2群に無作為に振り分けました.
1) 無処置の対照群
2) ギプスを用いて両側足関節を最大底屈位で1,2週間不動化する不動群
各実験期間終了後は両側ヒラメ筋を採取しました.そして,左側試料の一部はカスパーゼ3,活性型カスパーゼ3,線維化関連分子であるIL-1β,TGF-β1のタンパク発現量やコラーゲン特有の構成アミノ酸であるヒドロキシプロリン含有量の計測に供しました.また,一部はマクロファージの遊走因子であるMCP-1,筋特異的ユビキチンリガーゼであるAtrogin-1,MuRF-1,IL-1β,TGF-β1,筋線維芽細胞の標識であるα-SMA,タイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量の計測に供しました.一方,右側試料の一部には筋細胞膜を可視化するためのジストロフィンに対する蛍光免疫染色,アポトーシス細胞を可視化するためのTUNEL染色,DAPIによる核染色を施し,筋核100個あたりのTUNEL陽性筋核数を計測しました.また,一部にはジストロフィンに対する免疫組織化学染色ならびにヘマトキシリン染色を施し,筋核数や筋線維横断面積,一つの筋核が支配する細胞質領域を示す筋核ドメインサイズを計測しました.さらに,一部にはα-SMAならびにマクロファージの標識であるCD11bに対する免疫組織化学染色を施し,それぞれについて陽性細胞数を計測しました.加えて,一部にはPicrosirius
Red 染色を施し,筋膜のコラーゲンを可視化しました.
<結果>
不動群のラットヒラメ筋では不動1,2週とも活性型カスパーゼ3の発現が亢進し,筋核にアポトーシスが誘導されることが明らかになりました(図1).
また,不動群のラットヒラメ筋では不動1週で筋核数の減少と筋線維萎縮の発生を認め,筋構成タンパク質の分解に関わるAtrogin-1とMuRF-1の発現も亢進していました.また,不動2週では筋線維萎縮の進行と筋核ドメインサイズの低下を認め,Atrogin-1とMuRF-1の発現はさらに亢進していました(図2).
一方,不動群のラットヒラメ筋ではいずれの不動期間ともマクロファージとMCP-1の発現が亢進しており,マクロファージの集積を認めました(図3).
さらに,不動群のラットヒラメ筋ではいずれの不動期間とも線維化関連分子の発現亢進と筋線維芽細胞の増加を認めました(図4).
加えて,不動群のラットヒラメ筋ではいずれの不動期間ともコラーゲンの増生,すなわち線維化の発生を認めました(図5).
研究の意義
本研究の結果から,1週間という短期の不動で活性型カスパーゼ3を介した筋核のアポトーシスが生じ,これを契機としてマクロファージが集積し,線維化,すなわち筋性拘縮が発生することが明らかになりました.そして,このメカニズムを基盤として筋性拘縮の予防戦略を考えると,不動状態に曝された骨格筋に対して可及的早期から筋収縮運動を負荷し,骨格筋を不動状態から解放することが重要であるといえます.
論文情報
Natsumi Tanaka, Yuichiro Honda, Yasuhiro Kajiwara, Hideki Kataoka, Tomoki
Origuchi, Junya Sakamoto, Minoru Okita
Myonuclear apoptosis via cleaved caspase-3 upregulation is related to macrophage
accumulation underlying immobilization-induced muscle fibrosis
Muscle Nerve: 65(3): 341-349, 2021. doi: 10.1002/mus.27473
問い合わせ先
長崎大学生命科学域(保健学系),長崎大学大学院医歯薬学総合研究科理学療法学分野
助教 本田祐一郎(ホンダユウイチロウ)
Tel: 095-819-7967
Fax: 095-819-7967
E-mail: yhonda@nagasaki-u.ac.jp