廃用性筋萎縮は日常生活動作の制限因子となり,疾患罹患率や死亡率の増悪に直結することから,その進行を効果的に抑制する治療戦略の開発が喫緊の課題となっています.廃用性筋萎縮の進行にはAtrogin-1やmuscle
ring-finger protein(MuRF)-1といった筋特異的ユビキチンリガーゼの発現亢進を契機とした筋構成タンパク質の分解亢進が強く影響し,このメカニズムの一端にはprotein
kinase B(AKT)の脱リン酸化によるforkhead box O(FoxO)の核内発現の増加とperoxisome proliferator-activated
receptor γ coactivator-1α(PGC-1α)の発現低下によるFoxOの転写活性の亢進が関与するといわれています.一方,骨格筋電気刺激(EMS)による筋収縮運動は廃用性筋萎縮の進行抑制に有効とされていますが,上記の分子動態への影響は明らかにされておらず,その効果的な刺激条件も未だ不明のままでした.そこで,本研究では動物実験にてこの点を検討しました.
EMSを活用した筋収縮運動を高頻度に実施すると筋構成タンパク質の分解亢進経路の活性化が抑えられ,廃用性筋萎縮の進行が抑制されることが明らかとなりました.
【方法】
<実験動物>
8週齢のWistar系雄性ラットを用い,以下の4群に振り分けました.
1)対照群:無処置で2週間通常飼育を行う.
以下の実験群は両側足関節を最大底屈位で2週間ギプスで不動化する不動処置を施しました.
2)不動群:不動処置のみ施す.
3)低収縮回数群:不動の過程でEMSによる筋収縮運動を1:3の刺激サイクルで20分間行う.
4)高収縮回数群:不動の過程でEMSによる筋収縮運動を1:1の刺激サイクルで15分間行う.
<電気刺激の条件>
<検索方法>
実験期間終了後は両側ヒラメ筋を採取し,右側試料をATPase染色に供し,タイプⅠ・Ⅱ線維における筋線維横断面積を計測しました.また,左側試料はAtrogin-1やMuRF-1のmRNA発現量ならびに総FoxO,リン酸化FoxO,総AKT,リン酸化AKT
,PGC-1αのタンパク質発現量の定量に供しました.
<結果>
筋線維横断面積はいずれのタイプとも不動群と低収縮回数群,高収縮回数群で有意に減少していましたが,この3群間の比較ではタイプI線維でのみ高収縮回数群が不動群よりも有意に増加していました(図1).
また,Atrogin-1とMuRF-1のmRNA発現量は不動群と低収縮回数群,高収縮回数群で有意に増加していましたが,この3群間の比較では高収縮回数群が不動群よりも有意に低下していました(図2).
リン酸化FoxOやリン酸化AKT,PGC-1αのタンパク質発現量はいずれも不動群で有意に減少していましたが,高収縮回数群は不動群よりも有意に増加しており,対照群との有意差を認めませんでした(図3)
以上の結果から,高収縮回数群にのみAKTのリン酸化を介したFoxOの核内発現の抑制とPGC-1αの発現を介したFoxOの転写活性の抑制が認められました.そして,これらの変化がAtrogin-1やMuRF-1の発現抑制につながり,タイプⅠ線維の筋線維萎縮の進行を抑制したと推察されます.
EMSによる筋収縮運動は廃用性筋萎縮の進行抑制に効果的であり,そのメカニズムにはAKT/PGC-1α/FoxO pathwayの動態が関与していることが明らかになりました,そして,この効果には収縮頻度が影響をおよぼすことから,廃用性筋萎縮に対するEMSの至適条件の一つとして留意すべきであることが示唆されました.
論文情報Takahashi A, Honda Y, Tanaka N, Miyake J, Maeda S, Kataoka H, Sakamoto
J, Okita M. Skeletal muscle electrical stimulation prevents progression of disuse muscle
atrophy via Forkhead box O dynamics mediated by phosphorylated protein
kinase B and peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1α.
Physiol Res. 2023
高橋 あゆみ Ayumi Takahashi
長崎大学生命医科学域(保健学系)助教
tel / fax: 095-819-7967
mail: a.takahashi@nagasaki-u.ac.jp