大腿骨近位部骨折(hip fracture;HF)術後のリハビリテーションにおいて頻繁に問題となる機能障害の一つに”痛み”があり,中には慢性術後疼痛(chronic
postsurgical pain;CPSP)へ発展するケースも存在します.従来より,CPSPは手術患者の10~50%に発生することが知られており,CPSPの危険因子として術後早期の破局的思考や運動恐怖,抑うつよいった心理面の問題や定量的感覚検査の一つである圧痛閾値(pressure
pain threshold;PPT)によって評価される末梢感作や中枢感作が指摘されています.これまでに,われわれはHF術後に強い痛みが残存する患者の要因について検討し,術後早期から疼痛強度が高く,破局的施行に陥っていることを明らかにしてきました(Gotoら2020*).しかし,研究課題として末梢感作や中枢感作を含めて検討できていないことや経過の特徴を踏まえ残存する疼痛強度に影響する因子の相互関係について明らかにできていないため,この点について検討しました.
* Goto K, et al.: Factors affecting persistent postoperative pain in patients with hip fractures. Pain Res Manag 4; 8814290, 2020 doi: 10.1155/2020/8814290
HF術後に強い痛みが残存する者は疼痛関連項目の改善が不良でした.また,残存する疼痛強度には,早期の疼痛強度,破局的思考,運動恐怖の改善度,身体活動量が階層的に影響していることが示されました.
<方法>
対象:HFを受傷し,完血的治療を施行された患者72例
評価項目:表1に示す評価を術後2週・4週・8週に実施
分析方法:術後8週目のVRSが0または1だった者をmild group,VRSが2~4だった者をsevere groupに振り分けました.次に,各評価項目については群(mild
groupとsevere groupの2水準)と評価時期を要因とした反復測定2元配置分散分析を適用しました.さらに,疼痛強度に影響する因子の相互関係について明らかにするために決定木分析を適用しました.有意水準は5%未満としました.
表1.評価項目 |
<結果>
対象者に関してmild groupは54名,severe groupは18名に分類され,約25%において強い痛みが残存していました.二元配置分散分析の結果,患部のPPTに関してmild
groupは術後2週目と比較し,術後4週目以降で有意に向上しましたが,severe groupは有意な変化を認めず,術後2,4,8週目ともにsevere
groupはmild groupより有意に低値を示しました(図1).一方,遠隔部のPPTに関してはmild group,severe groupともに術後2週名と比較し,術後4週目以降で有意な向上を認め,術後2,4,8週ともにsevere
groupはmild groupより有意に低値を示しました(図2).同様に,表1に示す評価項目に関して,severe groupにおいてVRS,PCS-13,TSK-11,GDS-5は有意な改善を認めませんでした.
図1.二元配置分散分析―患部のPPTの比較― |
図2.二元配置分散分析―遠隔部のPPTの比較― |
図3.決定木分析 |
本研究の結果より,HF術後のCPSPを予防するためには,基本的なリハビリテーションだけでなく,HF術後早期から多面的な評価に基づいたオーダーメイドのアプローチを組み合わせることが重要であることが示され,今後は介入研究が必要であると考えます.
論文情報Nomoto Y, Nishi Y, Nakagawa K, Goto K, Kondo Y, Yamashita J, Morita K,
Kataoka H, Sakamoto J, Okita M.
Persistent postsurgical pain in hip fracture patients. A prospective longitudinal
study with multifaceted assessment.
Br J Pain. 2024 doi: 10.1177/20494637241300385.
社会医療法人長崎記念病院 リハビリテーション部
片岡 英樹(カタオカ ヒデキ)
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