脊髄炎は3例/10万人の稀な炎症性神経障害であり,予後は一定せず,60%以上の患者に軽度から重度の後遺症がみられます.また,脊髄炎由来の疼痛や異常感覚は治療抵抗性があることが知られています.しびれ感に対して我々はしびれ感と一致したパラメーターの電気刺激を行うしびれ同調経皮的電気神経刺激(TENS)を開発し,その有効性を報告しています(Nishi et al., 2022*).脊髄炎による神経障害性疼痛・異常感覚に対するリハビリテーションの効果は,希少疾患ゆえに十分に検証されず,症例報告の蓄積は臨床的意義があります.そこで,本研究では,しびれ感およびアロディニアによりADLが阻害されている横断性脊髄炎1症例に対して,しびれ同調TENSを行い,その効果を検証しました.
* Nishi Y et al., A novel form of transcutaneous electrical nerve stimulation for the reduction of dysesthesias caused by spinal nerve dysfunction: A case series. Front Hum Neurosci 2022. doi: 10.3389/fnhum.2022.937319.
横断性脊髄炎1症例に対してしびれ同調経皮的電気神経刺激を行うことで異常感覚および上肢活動量が改善したことを明らかにしました.
<方法>
症例はC4からTh2領域の横断性脊髄炎を診断され,左C8領域にしびれ感とアロディニアを呈していました.常に左手に手袋を着用し,左手の使用に恐怖心があり使用を避けていました.そのため,家事や仕事であるタイピングが左手で十分に行えないことに苦悩していました.介入はA-B-A-B-Aデザインを使用し,各期は1週間としました.A期はTENSを行わず,B期ではしびれ同町TENSを実施しました.しびれ同調TENSは1時間/回を2回/日行いました.症例は週2回の外来理学療法でストレッチや有酸素運動,疼痛教育を各期共通して行いました.評価項目として,しびれ感やアロディニアのNumerical
rating scale(NRS),主観的な上肢使用としてMotor Activity Log(MAL),客観的な上肢使用として両手関節部に慣性センサを装着し,上肢活動量の左右比を算出しました.
<結果>
Tau-Uおよびベイジアン未知変化点モデルにより,しびれ同調TENSのしびれ感やアロディニアの即時効果およびしびれ感の持ち越し効果が明らかとなりました.一方,アロディニアの持ち越し効果はみられませんでしたが,主観的および客観的な左手の上肢使用は改善し,家事や仕事での左手の使用頻度が向上しました.難渋していたしびれ感やアロディニアがしびれ同調TENSによりコントロールできるようになったことが,ADLの向上に寄与したと考えられます.
図1.しびれ感やアロディニア,上肢活動量の経過 A期はTENSなし,B期はしびれ同調TENSを行った期間を示す.介入前,介入後,介入後1時間はB期における評価を示し,A期では同一時刻のNRSを評価した. |
しびれ同調TENSは服薬治療への抵抗性が高い異常感覚においても効果を示す可能性があり,新たな治療選択の一つとなる可能性があります.今後は,他の疾患におけるしびれ感やアロディニアに対する効果のみならず,ADL棟への波及効果を検証していく予定です.
論文情報Nishi Y, Ikuno K, Minamikawa Y, Osumi M, Morioka S.
Case report: A novel transcutaneous electrical nerve stimulation improves dysesthesias and motor behaviors after transverse myelitis.
Frontiers in Human Neuroscience 18: 1447029, 2024 doi: 10.3389/fnhum.2024.1447029
長崎大学生命医科学域(保健学系)
助教 西 祐樹(ニシユウキ)
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