虚弱高齢者に頻発する拘縮は関節可動域（ROM）制限を特徴としており，その病態には骨格筋の線維化と伸張性の低下が関与するとされています．しかし，この病態を非侵襲的かつ客観的に評価できる方法は開発されていません．一方，近年では超音波画像計測装置（US）を用いて，筋輝度（EI）を計測することで線維化や筋内脂肪の増加といった骨格筋の室を，エラストグラフィー機能を用いてStrain Ratio（SR）を計測することで伸張性と関連を認める骨格筋の硬さを評価することが可能であると報告されており，臨床応用が期待されています．また，これらのUSによる骨格筋の質や硬さの評価は，加齢や虚弱，計測時の関節角度の違いによる影響を受けると報告されています．そこで，本研究では虚弱高齢者の拘縮の臨床病態評価法の開発につなげるべく，ダイパー交換に関わる股関節外転運動およびその制限因子となる長内転筋に着目し，若年健常者，健常高齢者，虚弱高齢者を対象に異なる関節角度で計測したEIとSRの有用性を検討しました．

　若年健常者，健常高齢者，虚弱高齢者の順で股関節外転ROM制限を認めたことに加え，同順で最終域にて計測した長内転筋が硬いことが明らかになりました．さらに，最終域にて計測した長内転筋の硬さは股関節外転ROM制限と強く関連性が認められました．

＜方法＞　
対象
若年健常者22名（男性：11名，女性：11名，平均年齢24.1±2.3歳），健常高齢者22名（男性：11名，女性：11名，平均年齢79.1±6.4歳），虚弱高齢者（男性：11名，女性：11名，平均年齢83.3±6.4歳）としました．

評価項目
１）股関節外転ROM：ゴニオメータを使用し計測しました．
２）長内転筋のEI：股関節外転0°ならびに最終域にて計測した超音波Bモード画像を基に，画像解析ソフトによって256諧調（0～255）の数値として算出しました．この値が高いほど長内転筋の線維化や筋内脂肪の増加が顕著であることを表します．
３）長内転筋のSR：超音波エラストグラフィーモードを使用し，股関節外転0°ならびに最終域にて高度基準物質に対する長内転筋の歪み比を算出しました．この値が低いほど長内転筋が硬いことを表します．

＜結果＞
股関節外転ROMと最終域の長内転筋のSRは若年健常者より他の2群は有意に低値で，虚弱高齢者は健常高齢者より有意に低値でした（図1，図2B）．一方，0°の長内転筋のSRは若年健常者と健常高齢者に有意差を認めませんでしたが，この2群より虚弱高齢者は有意に低値でした（図2A）．また，両条件で計測した長内転筋のSRは股関節外転ROMと有意な正の相関関係にあり，特に最終域で計測した長内転筋のSRとの相関が強い結果でした（図3A，B）．一方，両条件で計測した長内転筋のEIは3群間で有意差を認めず（図４A，B）．股関節外転ROMとの有意な相関も認めない結果でした．

図1．若年健常者，健常高齢者，虚弱高齢者における股関節外転可動域の比較 図2．若年健常者，健常高齢者，虚弱高齢者における長内転筋のStrain Ratioの比較 図3．股関節外転0°ならびに最終域における長内転筋のStrain Ratioと股関節外転可動域との関連 図4．若年健常者，健常高齢者，虚弱高齢者における長内転筋の筋輝度の比較 図5．股関節外転0°ならびに最終域における長内転筋の筋輝度と股関節外転可動域との関連

　骨格筋が伸張されている最終域で計測したSRは，加齢のみならず虚弱といった要因を反映していることに加えて，ROM制限と関連性が強いことが明らかになりました．したがって，この指標は虚弱高齢者の拘縮に関連する骨格筋の伸張性低下を臨床場面で非侵襲的に評価できる方法として活用できる可能性があります．

論文情報

Nakagawa K, Kataoka H, Inoue R, Goto K, Yamashita J, Nishi Y, Honda Y, Sakamoto J, Origuchi T, Okita M
Usefulness of muscle stiffness evaluated by ultrasonography for detecting muscle change related to contracture in frail older adults.
Canadian Geriatrics Jounal (Online ahead of print)

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