脊椎椎体骨折(以下,椎体骨折)受傷後後には,40~50%と高頻度に慢性疼痛が発生することが報告されており,その予防戦略の確立が重要な課題となっています.しかし,椎体骨折患者の慢性疼痛の発生要因に関して十分に検討されておらず,先行研究ではX線画像や磁気共鳴画像(magnetic
resonance imaginge; MRI)を用いた椎体や傍脊柱起立筋の形態変化に着目した報告が散見される程度です.そこで本研究では,精神心理的要因や身体活動量,痛覚感受性を含めた多面的評価に基づき,受傷後早期における慢性疼痛の発生に関連する要因について検討しました.
椎体骨折受傷後に慢性疼痛を発生する患者の入院2週後における特徴として,①患部の遠隔部における圧痛閾値(pressure pain threshold; PPT)が低下している.②痛みの反芻が強い,③5回椅子起立時間が遷延している,④低強度の身体活動時間が減少していること,の4つが認められました.さらにこれらのかなでも,5回椅子起立時間の遷延と低強度の身体活動時間の減少が慢性疼痛の発生に影響することが明らかになりました.
<方法>
対象:2021年12月~2023年12月までに新鮮椎体骨折を受傷し,入院後,保存療法を施行した患者としました.
評価項目:表1に示す画像評価と表2に示す評価を入院2週間後に行いました.
分析方法:分析は入院12週後の動作時痛の強さに基づいて,対象者を慢性疼痛群および非慢性疼痛群に振り分け,前述の評価項目について比較しました.加えて,入院12週後の慢性疼痛の有無を従属変数とし,変数減少法によるロジスティック回帰分析を行いました.
<結果>
対象者の40.9%(27名)が慢性疼痛を発症していました.
群間比較の結果,患部の遠隔部のPPTおよび低強度の身体活動時間について,慢性疼痛群は非慢性疼痛群と比べて有意に低値でした.また,PCS-6の反芻および5回椅子起立時間について,慢性疼痛群は非慢性疼痛群と比べて有意に高値でした(図1).ロジスティック回帰分析の結果,5回椅子起立時間と低強度の身体活動時間が慢性疼痛の発生に影響する因子として抽出されました(表3).
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本研究の結果より,椎体骨折後早期から患部の遠隔部のPPT,破局的思考(反芻),立ち上がり能力,身体活動量を評価することが重要であることが示されました.なかでも,立ち座り能力や身体活動量が低下しているケースでは慢性疼痛を発症する可能性が高く,受傷後早期から患者教育や行動医学的アプローチを導入し,身体活動量を向上させるとともに身体機能の向上を図ることが重要といえます.
Yutaro Kondo, Hideki Kataoka, Kyo Goto, Koichi Nakagawa, Yutaro Nomoto,
Junichiro Yamashita, Kaoru Morita, Nobuya Aso, Yuki Nishi, Junya Sakamoto,
Minoru Okita.
Identifying early risk factors for chronic pain development following vertebral
fractures: a single-center prospective cohort study
長崎大学生命医科学域(保健学系)
准教授 坂本 淳哉(サカモト ジュンヤ)
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