プレスリリースPRESS RELEASE



(博士課程)医療科学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Medical and Dental Sciences
(修士課程)保健学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Health Sciences


2024.04.06
人工膝関節全置換術後早期からの視覚および聴覚フィードバックを用いた大腿四頭筋の等尺性筋収縮運動の長期効果
ー術後1年のフォローアップ調査ー


研究紹介

人工膝関節全置換術(TKA)後は慢性術後疼痛の発生頻度が高く,それには術後痛の強さが影響していることが知られています.したがって,術後痛を適切に管理し,早期に軽減させることはTKA後の慢性術後疼痛の発生を防ぐために極めて重要です.これまでに,われわれは視覚および聴覚フィードバックを用いた大腿四頭筋の等尺性筋収縮運動(FB Quad Ex)を標準的なリハビリテーションプログラムに併用すると,標準的なリハビリテーションプログラムのみを実施した場合と比べて術後1週目から疼痛が有意に改善し,術後3週目における身体機能や日常生活困難度の改善にも効果的であることを明らかにしてきました(Kondoら 2022*).このような自験例から,FB Quad Exを併用したリハビリテーションプログラムはTKA後の慢性術後疼痛の発生予防に有効ではないかと仮説し,術後1年のフォローアップ調査を実施しました

*Kondo Y, et al.: Short-Term Effects of Isometric Quadriceps Muscle Exercise with Auditory and Visual Feedback on Pain, Physical Function, and Performance after Total Knee Arthroplasty: A Randomized Controlled Trial. J Knee Surg. 35(8): 922-931, 2022.

研究のポイント

FB Quad Exを併用したTKA後のリハビリテーションプログラムはTKA後1年における慢性術後疼痛の発生予防および歩行速度や運動耐容能,日常生活困難度の回復がより良好であることが示されました.

研究内容

<方法>

対象:前述の自験例の対象者のうち,術後1年のフォローアップ評価を行えた者.

介入内容:介入群の患者は入院期間中に実施される標準的リハビリテーションプログラムに加えて,術後2日目から14日目までFB Quad Exを実施しました.具体的な方法としては,ベッド上に長座位となり,その膝窩部に訓練機能付下肢筋力測定器(アルケア株式会社製)を設置します.そして,患者は機器の液晶パネルを見ながら大腿四頭筋の等尺性筋収縮運動を実施します.毎回の運動実施前に最大収縮筋力(MVC)を測定し,その結果に基づいて運動の目標値(60~70%MVC)を設定します.次に,患者は目標値に達するようにセッティング運動を開始し,目標値に達するとモニターには運動実施の残り秒数が表示されるとともにメロディが流れ始め,患者はそれらが終了するまで筋収縮運動を持続させます.なお,運動条件は収縮時間10秒,収縮回数10回,実施セット数1~2セットとしました.

評価項目:表1に示す評価を術前・術後3週・術後1年に実施しました.

統計解析:分割プロットデザインによる分散分析,有意水準5%未満

 

<結果>
対象者は介入群20名,対照群21名でした(図1).動作時の疼痛強度(VAS)は介入群,対照群ともに術後1年で術前および術後3週より有意に改善していました.また,術後3週および術後1年において介入群は対照群より有意に改善していました(図2).次に,術後1年における痛みの有無をみると,介入群における「痛み無し」と回答した者の割合は対照群のそれと比べて有意に高値でした.さらに,術後1年におけるTUG(身体機能)や6MWD(運動耐容能),WOMAC「日常生活困難度」は,介入群は対照群と比べて有意に良好でした(図3).
加えて,術後1年における身体活動量をみると,介入群における国際標準化身体活動質問票(IPAQ)の「歩行時間」は対照群のそれと比べて有意に高値であり,運動習慣のある対象者の割合は介入群(n=17,85.0%)は対照群(n=11,52.4%)と比べて有意に高値でした.


a:群間有意差(p<0.05),b:術前との群内有意差(p<0.05),c:術後3週との群内有意差(p<0.05)

 

a:群間有意差(p<0.05),b:術前との群内有意差(p<0.05),c:術後3週との群内有意差(p<0.05)

研究の意義

本研究の結果より,FB Quad Exを導入したTKA後のリハビリテーションプログラムはTKA後1年における疼痛,身体機能,運動耐容能,日常生活困難度の改善に効果的であることが明らかとなりました.つまり,このようなリハビリテーションプログラムはTKA後の慢性術後疼痛の予防に有効であるといえます.

論文情報

Yasutaka Kondo, Yoshihiro Yoshida, Takashi Iioka, Hideki Kataoka, Junya Sakamoto, Yuichiro Honda, Atsushi Nawata, Minoru Okita: Effects of Isometric Quadriceps Muscle Exercise with Visual and Auditory Feedback at 1 Year after Total Knee Arthroplasty. Physical Therapy Research 2024.

問い合わせ先

日本赤十字社長崎原爆病院 リハビリテーション科部
近藤 康隆(コンドウ ヤスタカ)
〒852-8511 長崎県長崎市茂里町3-15
Tel: 095-847-1511
E-mail: yasukon48@yahoo.co.jp



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