筋性拘縮の主要な病態は骨格筋の線維化であり,その発生メカニズムの基盤にはアポトーシスに伴う筋核の減少が関与しています.つまり,筋性拘縮の発生を予防するためには,アポトーシスに伴う筋核の減少を抑止する必要があり,そのための介入戦略として積極的な筋収縮運動が不可欠です.所属研究室ではこれまでラットの実験モデルを用い,骨格筋電気刺激を活用した筋収縮運動による筋性拘縮の発生予防効果を検討してきました.具体的には,ラット足関節を2週間不動化する過程で50Hzの周波数,4.7mAの強度での骨格筋電気刺激を2秒運電,6秒休止の1:3の刺激サイクルで20分間,1日2回,延べ2週間行うと筋性拘縮の発生を予防できることが明らかになっています.しかし,臨床応用を考えると1日2回の介入は治療効率の側面から課題があり,この点を踏まえ本研究では,日内介入頻度を1回としたうえで上記の刺激条件ならびにこれより筋収縮頻度を高めた条件を設定し,筋性拘縮の発生予防効果を検討しました.
不動化したラットヒラメ筋に高収縮頻度で筋収縮運動を負荷すると,筋核のアポトーシスが抑制され,線維化,ひいては筋性拘縮の発生を予防できることが明らかになりました.
<方法>
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,以下の4群に振り分けました.
1)無処置の対照群(Con群)
2)両側足関節を最大底屈位で2週間ギプスで不動化する不活動群(Im群)
3)不動の過程で後肢骨格筋に1:3の刺激サイクル(2秒通電:6秒休止)で20分間,骨格筋電気刺激による筋収縮運動を負荷するlow-contraction
frequency(LCF)群
4)不動の過程で後肢骨格筋に1:1の刺激サイクル(2秒通電:2秒休止)で15分間,骨格筋電気刺激による筋収縮運動を負荷するhigh-contraction frequency(HCF)群
なお,LCF群とHCF群には刺激周波数50Hz,刺激強度4.7mAの条件で,1回/日,6日/週の頻度で延べ2週間,骨格筋電気刺激による筋収縮運動を負荷しました.
実験期間終了後は両側ヒラメ筋を採取しました.そして,右側試料は筋核のアポトーシスを評価するためのTUNEL染色,筋核数や筋線維横断面積,マクロファージの動態を評価するための免疫組織化学的染色,筋膜を可視化するためのPicrosirius
Red染色に供しました.一方,左側試料は線維化関連分子であるIL-1β,TGF-β1,α-SMAのmRNA発現量ならびに線維化の指標となるヒドロキシプロリン含有量の定量に供しました.
<結果>
HCF群でのみ,筋収縮運動による筋核のアポトーシスの抑制が認められ(図1A,B),筋核数の減少が抑えられたことで筋線維萎縮が抑制されていました(図1C-E).また,これらの変化によってマクロファージの集積が緩和され(図2A,B),線維化関連分子の発現亢進も抑制されていました(図2C-E).
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本研究の結果から,不動早期より筋収縮運動を実施すると日内介入頻度が1回であっても筋性拘縮の発生予防につながる可能性が示唆され,この効果には筋収縮運動の収縮頻度が影響をおよぼすと推察されました.つまり,臨床における筋性拘縮の介入戦略では瀬㏍直的な筋収縮運動が不可欠であり,早期離床やそれに伴う自発的な筋収縮運動を頻回に促すといった視点が重要であると考えられます.また,早期離床が困難な対象者であっても骨格筋電気刺激を活用した筋収縮運動を高い収縮頻度で実施することで,筋性拘縮の発生を予防できると推察されます.
Honda Y, Yoshimura M, Takahashi A, Okita S, Miyake J, Ishiki Y, Seguchi C, Sakamoto J, Okita M.
Frequent tetanic exercise through electrical muscle stimulation may reduce
immobilization-induced muscle fibrosis by suppressing myonuclear apoptosis
Muscle Nerve. 2025 (Online ahead of print) doi: 10.1002/mus.28381.
長崎大学生命医科学域(保健学系)
助教 本田祐一郎(ホンダユウイチロウ)
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