プレスリリースPRESS RELEASE



(博士課程)医療科学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Medical and Dental Sciences
(修士課程)保健学専攻 理学療法学分野
 Department of Physical Therapy Science, Health Sciences


2024.07.02
電気刺激誘発性単収縮運動は不動に伴うPGC-1α/VEGF経路の不活性化を介した骨格筋の線維化を抑制する

研究紹介

 急性期医療において医学的管理のために患部が不動状態に曝されると,その弊害として筋性拘縮が生じます.そして,実際の臨床では筋性拘縮が進行した段階から介入を開始せざるを得ない場合が多く,その治療成績は不良であることから,効果的な治療戦略の開発が急務となっていました.一方,われわれはこれまで,筋性拘縮の主病態である線維化の進行には骨格筋の低酸素化が関与することを明らかにしてきました.この知見を踏まえ,骨格筋の線維化の進行を抑制するためには低酸素化を緩和できる介入戦略が効果的ではないかと仮説し,筋ポンプ作用の促進効果が期待できる電気刺激誘発性単収縮運動に注目しました.本研究では筋性拘縮の進行過程にあるラットヒラメ筋に対して電気刺激誘発性単収縮運動を負荷し,その効果を検証しています.

研究のポイント

 不動化したラットヒラメ筋に4週間の不動の過程で不動2週後から電気刺激誘発性単収縮運動を負荷すると,毛細血管の減少が抑えられることで低酸素化が緩和され,線維化の進行を抑制できることが明らかとなりました.

研究内容

<方法> 
 実験動物には8週齢のWistar系雄性ラットを用い,以下の3群に振り分けました.
1)  無処置の対照群
2)  ギプスを用いて両側足関節を最大底屈位で4週間不動化する不動群
3)  4週間の不動の過程で不動2週後より後肢骨格筋にベルト電極による電気刺激誘発性単収縮運動を負荷する単収縮群
なお, 単収縮群のラットに対しては刺激周波数10Hz,刺激強度3mA以下にて,1回/日の頻度で1回あたり30分間(6回/週),延べ2週間,電気刺激を行いました.

 実験期間終了後は両側ヒラメ筋を採取しました.右側試料の一部には毛細血管数と筋線維横断面積の計測のためにアルカリフォスファターゼ染色,一部には筋膜のコラーゲンを可視化するためにピクロシリウスレッド染色を施しました.また,左側試料は血管新生関連分子であるperoxisome proliferator-activated receptor γ coactivator (PGC)-1αとvascular endothelial growth factor (VEGF),低酸素化の指標であるhypoxia-inducible factor (HIF)-1α,線維化関連分子であるTGF-β1とα-SMAのmRNA発現量ならびに線維化の指標となるヒドロキシプロリン含有量の定量に供しました.

<結果>
 不動群のPGC-1αやVEGFのmRNA発現量は対照群と比較して有意に低値を示しましたが,単収縮群は不動群より有意に高値を示し,対照群との有意差を認めませんでした.また,不動群や単収縮群の毛細血管数と筋線維横断面積は対照群と比較して有意に低値を示しましたが,この2群間の比較では毛細血管数のみ単収縮群が不動群より有意に高値を示しました.(図1)

 不動群や単収縮群のHIF-1α,TGF-β1,α-SMAのmRNA発現量は対照群と比較して有意に高値を示しましたが,この2群間の比較ではいずれも単収縮群が不動群より有意に低値を示しました(図2).

 

 
不動群や単収縮群のピクロシリウスレッド染色像では対照群と比較して筋周膜や筋内膜の肥厚が認められましたが,この2群間の比較では単収縮群が不動群よりこれらの肥厚が抑制されていました.また,不動群や単収縮群のヒドロキシプロリン含有量は対照群と比較して有意に高値を示しましたが,この2群間の比較では単収縮群が不動群より有意に低値を示しました.さらに,不動群や単収縮群の足関節背屈可動域は各不動期間とも対照群より有意に低値を示しましたが,この2群間の比較では不動3週以降で単収縮群が不動群より有意に高値を示しました(図3)

研究の意義

本研究の結果から,筋性拘縮の進行過程にある骨格筋に対して電気刺激誘発性単収縮運動を実施すると,毛細血管の減少が抑えられることで低酸素化が緩和され,線維化の進行を抑制できる可能性が示唆されました.つまり,筋性拘縮が進行した段階から介入を開始せざるを得ない場合であっても,頻回な筋収縮運動によって代謝促進を図ることはさらなる筋性拘縮の進行を抑制するうえで重要な視点と言えます.そして,医学的管理などの理由で随意運動が困難な対象者である場合は,電気刺激療法によって頻回な筋収縮運動を促すことで,筋性拘縮の進行抑制につながると推察されます

論文情報

Takahashi A, Honda Y, Tanaka N, Miyake J, Maeda S, Kataoka H, Sakamoto J, Okita M. Skeletal muscle electrical stimulation prevents progression of disuse muscle atrophy via Forkhead box O dynamics mediated by phosphorylated protein kinase B and peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1α. Physiol Res. 2023

問い合わせ先

長崎大学生命医科学域(保健学系)
助教 本田祐一郎(ホンダユウイチロウ)
Tel: 095-819-7967
Fax: 095-819-7967
E-mail: yhonda@nagasaki-u.ac.jp



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